2018年 06月 17日 ( 1 )

喫茶店について考える。 その1『夜の窓』

昭和40年代後半から50年代にかけて、人はどうしてあんなに喫茶店に入ったのだろう。朝のモーニングセット、昼のランチ。打合せや休憩、暑さ寒さしのぎ、それからデート。いろんなシーンで喫茶店は利用されていたと思う。繁華街にある店はどこも趣向を凝らし、その店独自の売り(それは内装だったりメニューだったり様々だったけれど)を前面に押し出し、他の店との差別化を図っていた。集まる客も自然、その店の特徴を気に入った人ばかりになるので、店内の空気というか雰囲気というか色というか、そういうものは店と客とが一緒になって作り上げていた、そんな気がする。

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もう一度この店に入りたくて、三条木屋町を目指したのはいつだったろう。三条の橋を渡り、高瀬川の柳が揺れるのを横目に、体が覚えている方向に向かい、脚が覚えている角を曲がり、勝手に脚が止まったその場所に、あの懐かしい扉は見あたらなかった。

方向を間違えたか。角をひとつ早く曲がってしまったか。橋に戻り、もう一度体の記憶と脚の記憶に任せて歩く。どうしてもさっきの角で曲がり、さっきのところで脚が止まる。しかし、そこにはさっきと同じ見慣れないビルが建っていた。

やっぱりそうか。もうなくなってしまったのだ。もう、ないのか。その時の喪失感を、私はたぶん一生忘れないだろう。


扉を開けて入るとすぐにレジがあり、そのそばにはウェイターさんとウエイトレスさんとの姿が必ずあった。私が座る場所はいつも同じ。扉を入ってすぐ右、中庭側の席だった。この店は私にとって特別な店で、ここに連れてきたのは当時付き合っていた彼女と、私のスイングトップをゆずり受けたせいで親にこっぴどく叱られた友人Mだけだったと思う。

今でもネットで『喫茶 夜の窓』と検索すれば、この店を懐かしむ方のブログを見つけることができる。あの店にお世話になり、忘れられない人は、私以外にも大勢いるのだろう。それは当然だと思うし、いなければ不思議なのだ。



『夜の窓』はいつも大勢の客が集まり、それぞれの席を占めていた。客たちは自分自身との、あるいは向かい側に座っている人との会話と時間を楽しんでいた。(この店で別れ話をしたカップルもいただろうけど)。壁や家具、音楽やウェイターさんたち。それらはすべて『夜の窓』だった。客が店を訪れた目的、理由を邪魔することは決してしなかった。『夜の窓』は、空間は、ただそこにあるだけで、客にとって心地よい時間を過ごさせてくれた。


考えてみれば高校生だ。あの店にとってみれば不釣り合いなガキだったに違いない。当時はそんなこと気づきもしなかったけれど、そんなガキを客として一人前に扱ってくれるということが、どれほど珍しいことだったのか、今になって私にはわかる。

場所、広さ、家具、音楽、スタッフ。訪れる客に求めている時間を提供するためにそろえたことどもは、一流のものだったに違いない。

三条から来ても、四条からでも。目指せば足が勝手に連れて行ってくれた喫茶『夜の窓』。なくなったことは寂しいけれど、なくなったからこそ、思い出として色あせないのかもしれない。


たったひとつだけ残念に思っているのは・・・・。私がいつも座っていた席から見える中庭の、その向こう側にあった席に一度も座らなかったこと。あそこから見える中庭は、そして店内は、どんな風に見えたのだろうか。それを確認することはもう出来ない。


gonbe5515




by starforestspring | 2018-06-17 14:29 | 思い出 | Comments(0)


タベリストgonbe     よしなしごとつづり


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