君は柱時計のネジを巻いたことがあるか?

モノを捨てられない父と一緒に暮らしていた頃の話。

私たち家族に時を知らせる役目を担っていたのは、振り子のついてる柱時計。結構な年代物だった。どれくらい年代物かというと、時々ネジを巻かなければその時計は止まってしまうのだ。

チョウチョが羽を開いたときのような大きな真鍮のネジ。そのネジの置き場所は、時計の蓋を開けた、振り子が揺れてる下。ネジを巻くのは概ね父の仕事だったが、時々は言いつけられた兄や私が巻くこともあった。ネジを右から左に巻くと “ギィーッ、ギィーッ”と、錆びたような音がした。

この時計、振り子の揺れる“コッチン、コッチン”という音がするし、正時にはエコーをかけたような“ヴォーン、ヴォーン”という音が、1時なら1回、2時なら2回鳴る(当たり前)1時2時ならいいけど、12時なんてあなた、12回鳴るわけで。“ヴォーン、ヴォーン、ヴォーン 、ヴォーン 、ヴォーン 、ヴォーン 、ヴォーン 、ヴォーン 、ヴォーン 、ヴォーン 、ヴォーン 、ヴォーン ” 鳴り始めると、知らず知らずのうちに、その回数を数えてしまう性が妙に哀しかった。

レトロな雰囲気を好まれる方もいらっしゃいましょうが、実際家で使うと、あれはけっこうやっかいなものです。見てるぶんにはいいんですが、振り子の音、正時の音がとにかくうるさい。他のことに集中してる時は音が耳に入ってきませんが、気にしてしまうと音が耳から離れなくなる。音と音の間に、鳴ってないはずの音まで聞こえるというか・・・。私はずいぶん悩まされました。

そのせいで、家を出て、一人暮らしをするようになってからは、秒針が動く音や正時に鳴る音のない時計を使うようになりました。あの延々と続く音の中に、身を置きたくなかったのです。以来、今に至るも私の家の時計は音を発しません。


しかし・・ いつのまにか3分5分遅れてしまう。ネジを巻かずにおいとくと、正時を告げる音がだんだん間抜けな音になってしまう。下手すると鳴ってる途中で止まってしまう。そういう味わいや、装飾品として見た時の佇まい、手間がかかるからこそ生まれる愛着。そういうものは、デジタル時計や電波時計からは感じることが出来ないもののように思います。(正確な時を刻むという点において、彼らは実にまっとうな働きしていることは認めます)


私の心がもう少しのびやかになって、ゆっくり時間を過ごせるようになった時。朝の天気を確認したあとに、その日の仕事を決めるような暮らしになった時。我が家にまさかの“振り子時計登場”の日がやってくるかもしれません。なんとなれば・・・我が家の倉庫の一番奥に、新聞紙でくるんだ振り子時計が3つあるからです。父が捨てられなかったもののほとんどを平気で捨てることが出来た私ですが、あの時計たちをなぜか捨てるに忍びず。(といって、使う気にもなれなかったのでほったらかしになってたわけですが)

椅子を柱時計の下まで運び、上にのって蓋を開け、手でまさぐってネジを見つけ、左右のねじ穴に互い違いに差し込んでゆっくり回す。当たり前の日常だったあの体験が、今では不思議に懐かしく思い出されます。私もトシをとったということでしょう。

懐かしいだけで、まだ音の鳴る時計と一緒に暮らすのはまっぴらですが。


gonbe5515






by starforestspring | 2017-06-25 18:45 | 思い出 | Comments(0)
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