こんな脚本を書いたのは誰だ? 

私はレッドソックスのファン。体が小さくてもぶんぶん振り回すペドロイアが大好き。同じ理由でアストロズのアルトゥーベも好き。あとはドジャースのカーショー、ジャイアンツのバムガーナー、マーリンズの田澤。細かいことは抜き、力と力の勝負!ってオーラを発散する選手が多いし、それがMLBの魅力だろう。

MLBを見るようになったのは、野茂がドジャースに入団した時だった。彼は、小手先抜きの真っ向勝負を見せてくれた。打たれたホームランも多いと思うが、それはやっぱり勝負の結果だからしょうがない。相手が勝ってノモが負けたということ。向かってくるノモに、バッターはバットを思い切り振って応えたのだ。そういう勝負があるんだということを教えてくれたことが、私が“野球” から“ベースボール” に鞍替えすることにした理由だった。

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そんなMLBの中にあって、イチロー選手ってのはちょっと異色。並みの選手なら内野ゴロでアウトのところを、彼はヒットにしてしまう。ご丁寧にそのあと盗塁まで決めてしまう。ただの内野ゴロに打ち取ったはずなのに、ツーベースを打たれたのと同じことになるのだから、投手にとってはやってられない。

また、走者2塁でライト前ヒット。この場合、普通ならセカンドランナーのホーム生還は“既成の事実” として、セカンドが中継に入って送球をカットし、 打者走者の進塁を防ぐことに重きがおかれるのだが、イチロー選手はライトの深いところからレーザービームで2塁走者を刺してしまう。

「エリア51(セーフコフィールドにおけるイチロー選手の守備範囲)」に飛んだヒットでホームに帰ってくるのは、決して「既成の事実」ではなく、勇気と決断とを要求されることなのだ。昨日のアナウンサーがイチロー選手のことを「エリア51を統治していた皇帝」と言ってたけど、まさにそのとおりだと思う。

“ただの内野ゴロ” がヒットになることを快く思わない人もいたようだ。(チャーリー・ハッスル氏とか)その気持ちはわからないでもない。しかし、並みの人間ならアウトになってしまうところを、セーフにしてしまうというのは、打球をフェンスの向こう側まで飛ばす技術と遜色ないことではないのか。

Ichiroは、それまでアメリカの人々が見たこともないようなヒットを長年にわたって打ち続け、レーザービームに代表される華麗なる守備で見る人の心をつかんだ。彼のプレーを見るために人々は球場に足を運んだのだろうし、その期待を裏切らなかったからこそ、その次もまた人々は球場に向かったのだ。

Ichiroがシアトルにいた12年間。Ichiroはシアトルのファンに、新しいベースボールの形を見せ続けた。打つことで、走ることで、投げることで、見たこともなかったようなプレーをファンに見せ続けた。チームを移ることがごく当たり前のこととして捉えられているMLBにおいて、12年間もの間、彼がマリナーズにとどまったこともまた、シアトルのファンは勲章を授与されたかのように、誇らしく感じているのではないか。

だからこそ、チームを去って5年にもなる選手に対し「Welcome back! Ichiro!」と書いたプラカードを掲げ、打席に向かうIchiroに(敵チームの選手なのに!)スタンディングオベーションを送る。マリナーズはボブルヘッド人形を2万個も来場者にプレゼントする!彼が12年間ホームグラウンドとして走り回ったこの球場で、チームとファンたちは、最上級の敬意と感謝と期待とを持ってIchiroを迎え、接した。

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その
Ichiroが、彼らに、素晴らしい一打で応えた。

最終打席、初球高めの球を体をバネのように使って振り抜くと、ボールはライトスタンドに向かって一直線。観客は総立ち、大歓声。アナウンサーと解説者もしばしの沈黙で球場が沸き返る様子を伝えてくれた。

その後、球場を包んだのは「Ichiro! 」コールだった。

サードを守っていて、その打球がライトスタンドに吸い込まれるのを見ていたシーガー選手は「鳥肌が立った」というコメントを残している。それはきっと彼だけじゃない。スタンドにいた大勢のファンが、そうだったに違いない。そうでないわけがない。あの雰囲気で、あの状況で、あのホームラン。太平洋を越えた国で、テレビの前にいた私も同じだったもの。

こんな脚本を書いたのは誰だ? _b0137175_18400411.jpg

チャーリー・ハッスル氏、このプレーヤーに対し、まだなにか言うことがおありですかな?


gonbe5515


かつてイチロー選手は「ホームランはいつでも打てる」と言ったことがあったが、このホームランこそ“狙って打った”ものに違いない。


by starforestspring | 2017-04-21 18:54 | 雑感 | Comments(0)
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