『赤い文化住宅の初子』

昨日の読売新聞、一面左下に“政府公報”が出ていた。
曰く
「夢を、貧困につぶさせない」政府では、全ての子供たちが夢と希望を持って成長していける社会の実現を目指して、「子供の未来応援国民運動」を推進しています。
支援情報などは「子供の未来応援」


で、今日。観たのが『赤い文化住宅の初子』
このタイミングをなんて言えばいいのか・・・。
『赤い文化住宅の初子』_b0137175_2205710.jpg


このブログを読んで下さってるかたが、どれほど“貧困”をご存知なのかわからない。このブログを読んでるってことは、それだけですでに“貧困”とは無縁な故に。パソコンを持っている。インターネット環境を持っている。スマホを持っている。携帯を持っている。そのいずれかにあてはまるわけですので。

貧しいってのは・・多くの人がもっているものを持っていない人のことを指します。持ちたいけれども、持てない人のことを指します。その理由は・・それぞれに違うでしょうけど。

この映画に出てくる初子の家は、父が借金を苦にして蒸発。残された母親は返済のために働きづめで過労により死亡。残された兄は高校を中退して町工場勤め、妹は、高校進学をあきらめ、中学卒業後就職・・・。そういう話です。
『赤い文化住宅の初子』_b0137175_2205729.jpg


“普通の人”と、“貧困の人”との間には、深くて広い川が流れてる。
普通の人はきっと想像出来ないでしょう、電気を止められるってことがどういうことか。進学するために必要なもろもろのお金、受験費用とか制服代とか、教科書代とか・・そういうものにかかるお金が・・・ない!ってことがどういうことか。


この映画を撮った監督さん。タナダユキさんとおっしゃいます。
我が家の書棚にある『百万円と苦虫女』は、この監督さんの作です。
タナダさん、貧困をどこまでご存知なのか知りませんが、貧困と普通を区別するポイントはおわかりのように拝察致します。
『赤い文化住宅の初子』_b0137175_2205641.jpg


初子が、知らない人から5,000円をもらう。
そのお金で、3000円のワンピースを買い(たぶん彼女にとって数年ぶりの服の購入)、続けて参考書を買いに本屋に入る。欲しい参考書の値段を合算、手持ちのお金を足してみると・・・10円足りない。

10円足りない!10円足りない!

普通の人には“たった10円” 
しかし、、、貧困の人にこの10円は、すごく重いのです。
私、このシーンを観たその時に「この映画は信じていい」そう思いました。

他、いろいろあります。
興味のある方はこの映画のDVDを借りて観て下さればいいのですが、それほどでもない方はスルーで結構。

ただ、
私はこれだけは言っておきたいのだけれど、
高校に行く、大学に行く、服を買う、電気やガスを当たり前に使う、学校に持って行く弁当に卵焼きをつける。それだけでもう、“貧困”とはほど遠い、リッチな世界に住んでいるのですよと。


以下、登場人物にもの申す。
初子の担任、田尻。 アンタ、今すぐ教師を辞めなさい。アンタみたいな人を先生と呼ばなければならない生徒が可哀想すぎる。貧乏クジ。教師になった理由がわからない。殴っていいですか?
『赤い文化住宅の初子』_b0137175_220571.jpg


初子の彼、三島。アンタは結局、初子のなにもわからないまま、初子を見送ることになった。初子に夢を見させてしまった罪深さを自覚しろ・・と、言いたいところだけど、アンタはきっと、そんなこと思いもせずに、“普通の家”に育った女の人と結婚するんだろうね。

初子の父。結局アンタの弱さが、初子の母の、初子の兄の、初子自身の人生を狂わせたのです。そこ、自覚してますか?自覚してませんよね?してないからこそ遺影を抱いて死ねるんですよね。残される兄ちゃんと初子のことを思いもせずに。この映画の中で一番腹立たしかったのはあなたです。

貧困。それが理由で人生の可能性を閉ざされてしまう子供が大勢いるのは認めよう。
その境遇から這い上がるシステムがあることも認めよう。

しかし子供たちよ。
申し訳ないけれど、君が這い上がるには出会いが必要なのだ。
田尻のような先生と出会わず、初子の父のような親の子供として生まれず、現状に怒ることしか出来ず、冷静に行政が準備しているシステムを知ろうともしない、そういう兄の妹(弟)として生まれず。。。結局、運なのか?

「夢を、貧困につぶさせない」
こういうスローガンを掲げる、それ自体がすでに、貧困というものと距離を置いている、そういうふうに思えてしまうのは、私のひがみだろうか?


ラストシーン、大阪に向かう初子のもとに駆けつける三島くん。
君のその言葉は宙を舞っただけで、実現はしない。
たぶん初子はそれをわかっている。わかっているからこそストップモーションなのだよ。

人生は、夢だけでは成立しないのだ。計算と打算と・・それから・・・一人分の人生しか生きていない私にはエラソウに言えないんだけどね。

『赤い文化住宅の初子』
演技は文化祭並みですが、提示されるものは、実にリアルです。
初子が就職を決めたあとの、クラスメイトたちの言葉とそれを聞く初子の気持ちと。
そこが“普通の人”と“貧困に埋もれる人”との隙間を見事に表している。そう思います。


観終わったあと、爽快感は味わえなかったけれど、「いいものを観た」そう思える一本ではありました。

行政が準備している生活保護ってのは、実に窮屈ではありますが、初子の兄は自分が失職した時点でそのシステムを利用すべきだった。それをしなかったのが“世間を知らない” “世間と(あえて)距離を置いてる” のが理由だとしたら、あまりにも哀し過ぎる。

教育は・・なにごとにつけ、知るってことは・・身を助けるというのに。
この国は、それなりのシステムは準備してるというのに・・・。
なんでそこを避けて通るかな。


おにいちゃんにも、初子にも、違う世界が待っていたかもしれないのに、それを見せなかった。それがこの映画のリアルなところかもしれません。


gonbe5515

『半分の月がのぼる空』
で“銀河鉄道の夜”が素敵に使われていたように、この作品では“赤毛のアン”が象徴的に使われています。「この物語は、アンの空想」そう断じた初子の解釈、ああ自分はまだまだだなにもわかっていない。わかったつもりでいるだけだ・・そう思い知らされました。

初子が主役の『16』という映画もあるそうなんですが、観るかどうか迷っています。

エンドロールで知ったのですが、桐谷美鈴さんがご出演です。腕の細さが目に沁みました。

初子役の東亜優さん、『鹿男あをによし』にもご出演だったとか。オーマイガッ!
by starforestspring | 2016-10-04 22:25 | 映画・ドラマ | Comments(2)
Commented by at 2016-10-07 16:46 x
東 亜優さん 「君に届け」で爽子をトイレで突き飛ばした
ポニーテールの敵役でした。
ずいぶん印象が違いました。
さすが役者さん。

あやしい彼女のBRが届きました。
特典映像もなかなか充実していました。

Commented by starforestspring at 2016-10-07 18:08
あ!あの子がそうですか!
『君に届け』にご出演だったというのは、ネットで知ったのですが、どこに出てたのか、もう一度見直して確認しなきゃ・・と思ってました。
忍さん、情報ありがとうございます。
さっそく確認してみます!
名前
URL
削除用パスワード


川面を見つめて時の流れを知ったタベリストgonbe     よしなしごと残日録


by starforestspring

検索

カテゴリ

全体
雑感
それでいいのか日本人
国旗国歌についての私見
       
京都
映画・テレビ番組

サッカー
多部未華子さん
京都橘 オレンジの悪魔たち
       
お酒の話
思い出
食べものについて
韓国にまつわるエトセトラ
コミック名言集
サロメ計画『サロメ』
八尋計画『私を離さないで』
連続テレビ小説『つばさ』
映画『あやしい彼女』
北の国から
 
太宰治さん
川原泉さん
永六輔さん
 
男と女その摩訶不思議な関係
世界の中心で、愛をさけぶ
白夜行
連続テレビ小説 マッサン
連続テレビ小説 カーネーション
連続テレビ小説 あまちゃん
  
ディズニーランド
音楽
僕のマンガカタログ
時事
美術
USJ

Link

最新のコメント

sanaseさん、お久し..
by starforestspring at 07:20
その時間帯、どこにいらし..
by sanase2013 at 10:14
熊木さん、おはようござい..
by starforestspring at 05:50
正確には枚方市駅ですかね?
by 熊木 at 20:46
はい、呼びました!san..
by starforestspring at 19:13

記事ランキング

以前の記事

2024年 03月
2024年 02月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 10月
2023年 09月
2023年 08月
2023年 07月
2023年 06月
2023年 05月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 11月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 07月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 12月
2021年 11月
2021年 10月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 04月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 05月
2008年 04月

ブログパーツ