京都駅 山陰線ホーム


私が生まれたのは京都駅の裏の小さな路地にある長屋の一軒。
京都タワーと東寺、それから京都駅はいつも手の届くところにあった。

その京都駅の中で、私が一番好きだったのは山陰線のホーム。
電車が入るたびに、人でごったがえす東海道線のホームとちがい、このホームは薄暗く、人も少なく、入ってくる電車も古くさかった。東海道線ホームを陽あたりのいい南側だとすると、こちらはいつも日陰の北側。だけど私はそのさびれた雰囲気が大好きで、小さいころは用もないのにホームのあっちからこっちまでをうろうろ歩き回ったものだ。

中学の頃、このホームから出る電車に乗って、行き先を決めない旅をすることにした。
入場券で入り、山陰線ホームに行き、最初に入ってきた電車に乗る。そしてどこか適当な、降りたくなった駅で降りる。
さすがに中学生なので、松江やその先までは行かなかったけれど、福知山を越え、結構長いこと電車に揺られ、名前も知らない小さな山あいの駅で駅で降りた。

改札を出て周りを見渡すと、山陰線のホームよりさらに静かなところ。
正面に山に向かって伸びる道があったので、そこを登っていくことにした。登って登って、いつまでも登って、ようやく着いた頂上あたりにあった小さな店でご飯を食べた。そして来た道を引き返す。

降りていく途中でとっぷり日が暮れてしまった。
灯りもなく、車も通らず、まして歩いている人もなく。遠くにうっすらと家の灯りが見えるけれど、そこまでどれくらいの距離があるかもわからない。ただまっくらな道を降りていく。

駅に着いて、ベンチに腰掛け、時刻表を見た。
30分もしないうちに京都行きの電車がくる。
電車を待つ間、小さな駅の誰もいないホームと、時たまとおる車のヘッドライトを見ていた。



まあ、それだけのことだったのだけど、私にとっては忘れられない思い出のひとつである。
今、この年になって同じことをしようとしても、計算が先に立ってしまって同じようには出来ないだろう。

駅の喧噪から遠く離れた薄暗い、人からその存在を忘れ去られたかのような寂れたホーム。
私はそこでぼんやりとした夢を見ていたんだと思う。
ぼんやりを形にしたくて、旅に出たんだと思う。

山陰線のホームが私を旅に誘い、大人への階段を指さしてくれた。そんな気がする。


gonbe5515
by starforestspring | 2015-02-09 12:27 | 思い出 | Comments(0)
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