2017年 04月 12日 ( 1 )

藤沢周平全集 文藝春秋社

『風の果て』を読んだ。
図書館で文藝春秋社発行の藤沢周平氏の全集を見つけ、その中で名前は知ってるけれど、読んだことのない作品が収録されている巻を抜き出して借りてきた。『風の果て』は第二十巻 。『蝉しぐれ』と一緒に収録されている。

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この方の書く文章には、土のにおい、生活、笑顔、哀しみ・・名もなき人達のそういう表情が埋められているように思う。氏の作品に携帯スマホは出てこないし、メールだってない。誰かを家に呼ぶためには、使いを出さなければならないし、メシを炊くには火をおこすところから始めなければならない。便利さと引換に姿を消してしまったものが、氏の作品には残っている。江戸時代が舞台なのだから当然のことなのだけど、今の私にはそういう世界に身を置くことがとても心地いい。


時間はかかるだろうけど、全集の最初から、 一冊ずつ借りてみようかと思ってる。

『風の果て』を読了したあと、『蝉しぐれ』の最初と最後を読んでみた。
最初の部分、ふくが蛇に指をかまれ、気づいた文四郎が血を吸い出してやるときのふくの様子。最後の部分、箕浦で再会したふくと文四郎。その中で

「文四郎さん」
ふいにお福さまは言った。
「せっかくお会い出来たのですから、むかしの話をしましょうか」
「けっこうですな」
「よく文四郎さんにくっついて、熊野神社の夜祭りに連れて行ってもらったことを思い出します。さぞご迷惑だったでしょうね」
「いや、べつに」

の、やりとりから、前にも書いた

「文四郎さんの御子が私の子で、私の子供が文四郎さんの御子であるような道はなかったのでしょうか」

の言葉があり、そしておふくさまの

「これで思い残すことはありません」

から

馬腹を蹴って、助左右衛門は熱い光の中に走り出た。

の最後の一行で小説が締めくくられるまでの一節は、それまでの文四郎、ふくが歩んできた道を知るもの(ここまでこの小説を読み続けてきたもの)にとって、万感胸に迫るものがある、素晴らしいとしかいいようがない場面である。

これまで氏の作品をそれなりの数、読んできたけれど、この『蝉しぐれ』以上に興奮した作品は今のところない。全集を読み終える日がいつか来たとき、その思いが変わらぬのか変わるのか、ささやかな楽しみとなりそうな気がしている。


gonbe5515




by starforestspring | 2017-04-12 22:40 | | Comments(0)


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