『春との旅』

例えば、「パリに行きたい」「ニューヨークに行きたい」「シリアに行きたい」そう遠い目をして夢見心地に語る人を前にしたとき、「日本だって全部知ってるわけじゃないんだろ?国内にもいいところがあるぜ?」と言う人がいる。行ってみたい気持ちがあるんだから本人の好きなように行かせてやれば?と思うと同時に、ごもっともだよなあとも思う。

う~ん、前ふりとしてのこの文章はどうなんだか、よくわからん。

さっき、素晴らしい映画を観た。
ありきたりの表現で申し訳ないけれど、シーンのひとつひとつに目が釘付けになり、身を乗り出し、タメ息をつき、心打たれ、終わったあとの余韻が快感だった。


ご存知でしたら申し訳ない。私は今日初めて知りました。
『春との旅』2010年公開作 脚本・監督小林政広
『春との旅』_b0137175_18123577.jpg

キャスト<出演順> ←エンドクレジットがこうなってた。

仲代達矢
徳永えり
大滝秀治
菅井きん
小林薫
田中裕子
淡島千景
柄本明
美保純
戸田菜穂
香川照之


お気づきでしょうか?当時はまだ新人扱いだった徳永えりさんを除けば、芸達者な方ばかりが集まっておられます。祖父忠男(仲代達矢さん)と孫はる(徳永えりさん)が、親戚(祖父の兄妹)のところを順に訪ねていくロードムービー。(と、Amazonなんかでは紹介されてる)

海のすぐそばにへばりつくように建ってる掘っ立て小屋のような家が遠景から映し出される。その戸口からいきなり老人が飛び出して来る。映画はそこから始まる。それから12分間、ろくにセリフもなく、老人と、老人の後ろをがに股で追いかける若い女性の二人だけしか画面に出てこない。「なんだ?いったいなにがあったんだ?」観ているものには状況がつかめず、画面から目を離すわけにはいかない。

『映画・ドラマ』のカテゴリーで常々申し上げているとおり、私はセリフで語られるより、“映像で語ってくれる映画が好きなのです。そんな私にこの12分は、たまらない導入部でした。この12分を観ただけで、私はこの映画が好きになったし、残りの時間、いっときたりとも画面から目を離すまい、電話がなっても出るまいと心に決めたのでした。

映画はこの“祖父が家を飛び出す”ところから始まるのです。家を飛び出す理由は、このあと二人が訪ねていく先々で少しずつわかっていきます。家を飛び出す前には様々な事情があったのに、その事情をすっとばして映画を始め、あとからその“事情”を提示していく。実に上手い脚本だなあと、感心しました。手法としては珍しくないのでしょうけれど、導入部の12分でクエスチョンマークが頭の上を飛び交った私には、その“事情”が明らかになっていくたびに、祖父に感情移入してしまい、はるに感情移入してしまい、祖父の兄妹にもまた、感情移入してしまうのです。

書きたいことは山ほどあるのですが、それを書いてしまうとこの記事にダマされ興味を持って下さり、DVDをレンタルしてご覧になる方の鑑賞の妨げになるに違いないのです。でもでも、どうかしてこの気持ちを伝えたい。

これもまた、何度か書いてきたことですが、小説を読むときには行間を読めと教わりました。昔々は「月が・・きれいですね」ということが、相手への恋心の告白だったそうです。ちょっと昔でも“僕は君を・・と言いかけたとき、街のあかりが消えました”という歌詞で、高台で寄り添っている男女の姿と、そこからあとの二人の展開を予想できたもんです。それがどうですか近頃の歌は。“好き”とか“ずっと一緒にいたい”とか“あなただけ”というようなそのものずばりな、なんのひねりもない、中学生の作文(なつかしいですね、『あやしい彼女』)のような歌詞ばかりじゃないですか。

それがイマドキのことならオッサンはなにも言えませんが、言葉に隠されたり含まれたりする、男女の機微とか、祈りとか、そういうものを読み解く楽しみっていうのを知らずに大人になるのって、寂しくないですか?
『春との旅』_b0137175_18125486.jpg

この映画にはそれがあります(キッパリ!)
仲代さんの演技、徳永さんの涙、大滝さんの言葉の強さ、柄本さんの怒り、香川さんのためらい・・それら目に見えるものの向こうにある、悔しさとか、優しさとか、情けとか、慈愛とか、後悔とか、願いとか・・が見えたとき、この作品は名作として心に残るのです。

『春との旅』_b0137175_18124966.jpg


『春との旅』_b0137175_18124528.jpg

『春との旅』
日本映画の中にはまだまだ知らない名作がたくさんあるんだと恥じ入った一本。

是非是非。

『春との旅』_b0137175_18125436.jpg


今からもういっぺん、観ることにします。
そして、観てて気になったことのいくつかは、次回に。


・・・・And that's the way it is.

gonbe5515




by starforestspring | 2017-10-23 18:23 | 映画・ドラマ | Comments(0)
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