『煙草』4 その統べるべきもの
健康志向、値上げ、周囲の人からの勧め、そういうものをきっかけにして、煙草をやめていく人は多い。でもやめられない人も同じくらいに多いようだ。
禁煙に成功するか否かは吸いたくなったときに、どれだけ我慢を続けられるかが勝負・・みたいに言われる。もちろんそれは必要なことだと思うけれど、我慢だけではどうにもならない。禁煙と大書した髪を壁に貼ったり、あめ玉をなめたり、水を飲んだり、いろいろな“禁煙対策”はあるけれど、それって、役立ってますか?
私は煙草をやめる気など毛の先ほどにもなかった。周りがみんなやめても、自分だけは吸い続けると公言していた。にもかかわらず、やめる気になったのは・・・娘二人がたばこを吸ってる私を見上げているあの不思議そうな瞳のせいだ。はるか昔の、黒いつぶらな瞳が私を見上げたあの時と同じ感覚を、私に思い出させてくれたのだ。その一瞬、私の心に始めて「やめるか・・」という真剣な気持ちが湧いて出てきたのだ。
やめると決めたら、あとは早い。どうせやめるなら、それなりのセレモニーをしてからやめよう。そして、やめる以上は、絶対に挫折しない方法を考えよう。そう決めて、私は自分の禁煙への道筋を、煙草をくゆらせながらあれこれ考えた。
そもそも、煙草を吸いたくなるのは、なにゆえに?それまで考えたこともなかったそのことを突き詰めたとき、これといった理由が思いつかなかった。要は惰性で吸ってるだけなのだ。ごはんを食べたあと。仕事の区切りがついたあと。出勤してタイムカードを押したあと。私が煙草をポケットから取り出すタイミングは、決まっていることに気がついた。
昔々、ブギウギバンドが歌ってた
♪寝覚めの一服 食後の一服
♪授業をさぼって喫茶店で一服
♪風呂入って一服 クソして一服
♪そいでまたベッドで一服
♪風呂入って一服 クソして一服
♪そいでまたベッドで一服
このパターンである。
よし、これをつぶせば、煙草をやめられるはず。そう気づいた私は、一週間の猶予を自分に与え、残り5日、残り4日、残り3日と、カウントダウンを重ね、最後の一日の深夜、まだ手元には半分くらい残っている煙草があったけれど、あえて自動販売機で新しい煙草を買ってきて、その封を開けた。そして、いつものとおり、真ん中から煙草を一本取り出し、これが最後の一服と、心に決めて火をつけ、そしておもいっきり一度だけ吸い込み、煙を吐き、長く残った煙草をもみ消した。それから残った19本入ってる煙草の箱と、半分くらい残ってたのとをまとめてねじりあげてつぶし、近くのゴミ箱に放り捨てた。家に帰ってそのまま寝る。明日からは自分が立てた計画に沿って生活するのだと心に決めて。
翌朝から、私は前日までの自分の行動パターンをことごとく変えていった。目が覚めて顔を洗い、朝ご飯を食べる。いつもならその後外に出て一服し、それから着替えるのだが、外には出ず、すぐに着替えをして、そのまま出社。会社につき、タイムカードを押し、デスクにカバンを置いたらとりあえず一服・・だったのを、デスクにカバンを置かず、ロッカーにカバンを放り込んだあと、デスクに戻ってパソコンを起動。そのあと庭に出て、屈伸運動。朝礼が終わり、掃除も終わり、とりあえずここで一服という時に、すぐにデスクに戻ってメールチェック。昼食が終わったら、コーヒーと煙草・・だったのを、コーヒーを飲まず、ミネラルウォーターを飲んで、会社の周囲を散歩。
とにかく、「いつもなら、このタイミングで一服」というルーティンを、ことごとくつぶしたのだ。やってみて実感したけれど、コーヒーと煙草、食後と煙草、タイムカードと煙草、仕事の区切りと煙草、これらは全部セットになっていたのだ。だから、そのセットをつぶして、新しいセットを作る。これによって、煙草を吸うきっかけを奪ってしまう。きっかけがないから、煙草を吸う理由がない。理由がないから吸わずにすむ。
私が思ったとおり、煙草は惰性と習慣による行為で、その連鎖を断ち切ることで、煙草への執着は、日に日に薄れていった。だが、中毒の恐いところは、意識の中では煙草離れしていても、体がニコチンを要求するのだ。これがたぶん、多くの人が挫折するもっとも大きな理由だろう。例にもれず、私の体もニコチンをほしがり、心に対して強い要求をしてきた。その時私は、意識して軽くそれをはぐらかすことにした。「いやいや、別に煙草なんか吸わんでもいいし」「んじゃ、オレンジジュースでも飲みますか」と、煙草というモノとは違うことに意識を切り替えることにした。大上段に「禁煙するんや」「おれは煙草をやめるんや!」と振りかぶるのではなく、「あ、そうそう、次はこれをやっとかんと」と、煙草を吸うこととは違う、別の行為に意識を切り替える、それをこころがけた。
二日、三日、一週間、二週間。案外簡単に日が過ぎていき、その間に煙草を吸わないことに気づいた周りが「禁煙?」などと聞いてくる。「まあね、ちょっとやってみようと思って」と、あくまで軽くそれに答える。
そうしていくうちに、煙草を吸わないルーティンが当たり前になってきて、煙草と共にあったルーティンは影も形もなくなった。煙草をやめてごはんがおいしくなったとかはないけれど、朝と夜に歯磨きをするとき、えづかなくなったことは素晴らしい成果だと思った。それからこれが一番おどろいたのだが、それまで一日3本から5本飲んでた缶コーヒーが、「こんなもん、飲んでたのかオレ?」と、信じられないくらいまずく感じるようになった。(だからあれから15年缶コーヒーを飲んでない)ジョージアのエメラルドマウンテン、好きたったんだけどなあ・・・。
まあ、そういうわけで、私の禁煙は出来てしまったのです。煙草を吸う行為につながるルーティンを別のものに変える、これがまず第一。次に、体がニコチンを求めてきたら、あくまで軽く「煙草吸ってもべつにどうってことないし」と、自分に言い聞かせて、すぐに別の行動に移ってしまうこと。これの繰り返しによって。
コンビニで、歩道で、スーパーで、煙草を吸ってる人が体から発散する匂いに気づくようになったら、それは禁煙成功のしるしです。煙草の支配から本当に抜け出したいと思っている方、やめたい理由がちゃんとある方、なにかのセレモニーのあと、あくまで軽~く、やめてみませんか?
禁煙なんて、簡単ですよ。
・・・・And that's the way it is.
gonbe5515
by starforestspring
| 2017-10-11 21:41
| 雑感
|
Comments(2)
私がタバコを常用し始めたのは高校に入った頃でした。銘柄はハイライト。私の部屋は友人達の溜まり場になっていたので、皆んながタバコをふかすもので、煙が充満し学生服やコート、学生鞄から教科書、ノートの類までタバコの臭いが染み付いて学校では有名でした。教師も勿論気付いていたと思いますが進学校なので生活指導などは緩く、咎められた事はありませんでした。
そんな私が禁煙を思い立ったのは30歳の頃、大袈裟な決断などなく、何となく「止めてみようか」と思い立ったのでした。今吸っている一箱が無くなったら止めると決めました。
そうしたら、すんなりと止められました。軽い気持ちで止めたので成功したのだと思います。禁煙なんて簡単です。(笑)
近頃気になるのは社会人2年目の息子がタバコを吸う事です。止めれば良いと思っているのですが、止めようとはしません。まあ、自分の若い頃を考えると仕方ないですね。
岡山も主要な通りでの路上喫煙が条例により禁止され、愛煙家にとっては住みにくい世の中になりましたよね。
そんな私が禁煙を思い立ったのは30歳の頃、大袈裟な決断などなく、何となく「止めてみようか」と思い立ったのでした。今吸っている一箱が無くなったら止めると決めました。
そうしたら、すんなりと止められました。軽い気持ちで止めたので成功したのだと思います。禁煙なんて簡単です。(笑)
近頃気になるのは社会人2年目の息子がタバコを吸う事です。止めれば良いと思っているのですが、止めようとはしません。まあ、自分の若い頃を考えると仕方ないですね。
岡山も主要な通りでの路上喫煙が条例により禁止され、愛煙家にとっては住みにくい世の中になりましたよね。
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by
starforestspring at 2017-10-13 10:33
昭和を知る愛煙家には、今のご時世、本当に住みにくいことだろうと思います。とはいえ、それが時代の流れなら、いたしかたないことでして。ご自身が愛する煙とともに、これからも過ごして行かれるご覚悟なら、きっと浮かぶ瀬もあることでしょう。
ご子息の喫煙、やはり誰もが通る道なのかと思います。marrellaさんがそうだったように、30才くらいであっさりやめられるかもしれませんよ。
ご子息の喫煙、やはり誰もが通る道なのかと思います。marrellaさんがそうだったように、30才くらいであっさりやめられるかもしれませんよ。
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