小さいおうち

先日私は『花とアリス』について、
『極端な話、映画の真ん中をすっ飛ばして、最初の10分ちょっとと最後のアリスのダンスシーンからラストまでを観るだけでも映画を観たような気持ちになれるんじゃないだろうかとさえ思いますね。』と書きました。

あとで考えてみると誤解を招きそうな表現だなあと思ったので改めて言い直します。
最初と最後だけみれば充分という意味では決してありません。最初と最後が際立って素晴らしいという意味です。
観られるものなら、全編観て下さい。
花とアリスの自然な会話の妙、珍しく明るい木村多江さん、万年筆に込められた父と娘のウヲアイニー、空に舞うトランプ、雨の中を踊るアヤシイ黒い人、「すげえな花ちゃん、なんでもありだ」、池のほとりのレストランでのところてん、アリスの涙、ふうちゃんの写真・・・見てもらいたいところがたくさんあります。
はい、いい映画なんです。

さて、昨日
『小さいおうち』を観ました。
小さいおうち_b0137175_18463263.jpg


おばあちゃんが孫から「自叙伝」を書くことを勧められ、その言葉にのって書き始める。その内容は・・・。

戦前、戦中のとある山の手の中流家庭のお話。
道ならぬ恋に落ちてしまった奥様、お相手はご主人の部下。
そしてそのふたりのことを気に病む女中さん(おばあちゃん)
よくありそうで、なさそうな。。

残念ながら私には、映画を観たという満足感が得られませんでした。
それは奥様と部下の道ならぬ恋(言ってしまえば不倫)についてのお話を現代から過去へさかのぼり、また現代に戻ってきて実はあの時の手紙は・・と謎(?)が解かれ、それを知った孫が感極まって涙を流す・・・という流れにちっとも感情移入出来なかったからです>私が。
小さいおうち_b0137175_18462927.jpg


最も残念だったのは、奥様がお出かけになる時の帯の向きと、お帰りになった時の帯の向きが違ってる。それは最初に観客の前にはっきりと映される、たいていの人はそこで気づく。気づかなかった人も、その違いに気づいた女中さんの表情の変化から、それと察することが出来る・・という二段構えで見せておきながら、さらに加えてナレーションで「帯の向きがちがっておりました」と解説する。

これはやりすぎでしょう。もしかしたらこの物語の最も大切な部分を台無しにしたような気がします。

スクリーンの中で見せておきながら、わざわざそうして撮っておきながら、言葉で説明する。
結局言葉で説明するのなら、それまで見せなかった奥様の着替えのシーンを見せ、着替え終わった後ろ姿で帯の柄を思わせぶりに見せる必要はなかったでしょう。家を出てから帰ってくるまでに『帯が解かれ結び直された』ことを知らせたいのなら、奥様が下宿の階段を上がっていって、部屋のに入ったあと、部下が下にいる下宿のおばさんに「お茶はいりません」と言って襖を閉めたそのあとに、部屋の中の二人の様子を映すなり、帯が落ちるショットのような、頭の中で想像させるようなショットを入れるなりすれば済む話。

二段構え、三段構えで観る者にお出かけになってからお帰りになるまでに起こったことを想像させるシーンを度々提示しておきながら、結局“言葉で説明する”っていうのは、観る者を信用してないか、撮った映像に自信がないかのどちらかではないかと。

このあたり、ご覧になってない方にはなんのこっちゃでしょうが、ご覧になった方にはこのシーンの感想をお聞きしたいものです。

そうそう、もうひとつ。
結局奥様とだんな様は空襲にあい、「防空壕で抱き合った状態で亡くなっていた」とやはり言葉で説明されるのですが、じゃ、その空襲のシーンで赤い屋根の小さなおうちに焼夷弾が落ち、燃えさかる炎の中から聞こえた悲鳴は誰のだったんだと。女中さんは実家にもどり、あの家にいたのは、奥様と旦那さまと坊やだけだったはず。それともたまたま叔母さんが遊びに来てた?親友が遊びに来てた?で、奥様と旦那様と坊やが防空壕に逃げたあとも家に残ってて、直撃を受け悲鳴を上げ炎に包まれた?不自然ですよそれ。

坊やが生きてた理由も知りたいなあ。

しつこいようですがもうひとつ。
戦争中というのにあの服装。あの暮らしぶりは・・・。
敵性語である英語の本を持っていることを非難され、本を焼くように言われた花子が、その英語の本をわざわざ表紙が見えるように持って空襲の中を逃げるシーンを見せられた時に似た違和感を感じました。

・・・・とまあ、クソミソに文句を言ってまいりました。
が、ここで私自身落ち着いて考えてみました。
これは、もしかしたら謎かけなのではないか。
こんなに単純なものではないのではないか、私が気づいてないだけで。

う~む。
そういえば、おばあちゃんの部屋に飾ってあった小さいおうちの絵。遺品整理の時に簡単に捨てられた絵。あれは板倉さんの記念館に飾られてた絵(板倉の寝室に飾られてたらしい)によく似てた。
それから・・「こうして小さいおうちの恋は終わりました」というナレーション。
終わりました・・と言ってはいるけれど、実際にはタキは手紙を届けてなかったわけですから、“終わった”のではなく、“終わらせた” わけで。にもかかわらずあえて“終わりました”と表現してるのはなぜだろう?

実はタキは時子の事が好きで、板倉と時子との仲を嫉妬していた。
タキは板倉のことが好きで、戦後板倉と交際があり、そのため板倉は終生独身を通した。

この映画なかなかに深い “の” かもしれません。
それともまた原作を買って読んでみるか?

とにもかくにも、スクリーンの中では、納得のいかないところがたくさんあった不思議な映画でした。黒木さんの困ったような表情とふくれた時の表情を見られたこと、それから久しぶりに松たか子さんのお元気な姿を見られたことが収穫でしょうか。
小さいおうち_b0137175_18462861.jpg


gonbe5515

中嶋朋子さんの登場の意味も不明だなあ。
あのシーンのあのセリフは結局あとの展開になんの影響も及ぼしていないぞ。




by starforestspring | 2014-09-30 18:52 | 映画・ドラマ | Comments(0)
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