『私を離さないで』を観て  3

なんのために生きるのか。
自分の使命はなんなのか。

今回のこの舞台を観たことで私は、自分が感じたことを、ちゃんと自分で整理しておこうという気になりました。
飛ぶヘリコプター、スローモーションの生徒たち、揺れるカーテン、波しぶき、積み上げられた椅子と机、八尋の姿を見て涙するマダム・・。
5月15日木曜日、さいたまで公演された『私を離さないで』という、一期一会の作品について、忘れないでおこうと思いました。


ヘールシャムの生徒たちは、生まれながらにして『使命』を授かっていました。
自分たちがなすべきことを、幼い頃にはっきりと言葉で伝えられていたのかどうか、それは小説でも映画でも触れられていません。舞台も同様です。もとむが勢い余って八尋の頬をぶってしまったあとの冬子先生の対応がそれを暗示してはいましたが。

彼らは“提供”をし、“終了”することで使命を果たす。
そのために健康を保ち、ケガをしないようにする。
最善の“提供”をするために。最善の使命を果たすために。

彼ら自身がその使命を受け入れていたのなら、その日までの日々は充実したものだったかもしれません。受け入れることが出来てなければ、「なぜ?」の問いを繰り返していたことでしょう。

もとむ、鈴。そして彼らの多くの友人たちは提供を終えて“終了”し、“使命”を果たしました。
八尋もまもなく提供が始まるのでしょう。
その日まで八尋はどんな気持ちで日々を過ごすのか。
提供を繰り返し、“終了”の日を間近に感じるとき、どんなことを考えるのか。
もとむ、鈴、そして多くの“仲間”たちがたどった道と同じ道を歩むとき、なにを思うのか。


なんのために生きるのか。
自分の使命はなんなのか。

数え切れないほどの命があり、数え切れないほどの命の使い方があり。
生きてる間に精一杯毎日を過ごしているかと問われ、はいと答えられる人がどれほどいるのか。
命を使って、日々を生きている人がどれほどいるのか。

なんのために生きるのか。
自分の使命はなんなのか。

それがわからず、見つけられず、探し回っている人もいます。
探すのに疲れ、命を使うことをあきらめ、芯を途中で切ってしまう人もいます。
あきらめてしまったんだけど、切ることもできず、ただ生きている人もいます。
そんなことなにも考えず、毎日毎日時間に追われている人もいます。

だとすれば、

自らの命を差し出し、他者を救う。命を終えることは、自らの使命を果たすこと。
使命を果たすために生きる八尋たちのほうがよほど“生きている”と言えはしないか。
もしかすると“終了”は、八尋たちにとって誇りではないのか。

私は生きていると言えるのか。
誇りとともに、“終了”することが出来るのか。
八尋、鈴、もとむの姿と言葉を思い出しながら、今、自分自身にそう問いかけています。


蜷川幸雄作品『私を離さないで』
チャンスのある方は是非前髪をおつかみください。
観て損はない作品だと、私は思います。

gonbe5515

映画のキャシーにははかなさが匂い立っていた。
舞台の八尋には繊細さと神々しさとが共存していた。
本当にあの方は・・女神。
by starforestspring | 2014-05-18 19:10 | 八尋計画『私を離さないで』 | Comments(0)
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