『鈴木先生』 最終回

なんの前フリもなくいきなり“最終回”ですみません。

このドラマ、yamarineさんのブログで初めて知り、かわたさんのブログで詳細なレビューを拝見し、“密かに”レンタルして見ていたんです。
今更私がこのドラマについてとやかく申し上げる必要もあるまい。
そう思って一人静かに“鑑賞終了”にするつもりだったのですが・・・・。

私はこのドラマ、少し距離を置いて観てました。
鈴木先生の目指すものは素晴らしいとおもったけれど、それを『実験』と表現してしまうことに割り切れないところがありました。
足子先生という人物の設定、確かにああいう先生はいたし、今でもいるのかもしれないけれど、少し誇張がすぎるのでは?と、“手法”が見え隠れしてうなづけなかったし。
#でも足子先生は崩壊してしまってたんですよね。それならわかる。

そんなこんなで興味深くは観ていたんだけど、このドラマについてなにか書こうという気にはなれなかったのですが・・・・。


それが出来ませんでした。
この最終回、私は泣きましたよ。
まさかまさか・・・です。
2-Aの生徒たちの真剣な議論のやりとりに。
みんなが求める道を見つけ出すために、自らの心の奥深くに秘めていた心情を吐露する姿に。

私が今日、あえて書きたくなったきっかけを作ったのはさよとちかのやりとりです。
 #ここからは、個人的経験に基づく私情が入りますので、ご了解ください。
シングルマザーの娘として育ってきたちか。
シングルマザーの娘であるちかを信用していなかったお母さんも持つさよ。
ちかを信用しなかったお母さんには理由があった。自分の息子(さよの弟)がいじめにあい、不登校になった。そのいじめた相手が・・シングルマザーの子どもだったから。
でも、そのお母さんも、いつかシングルマザーの子どもに対する偏見を捨てるようになる。

なぜか。

シングルマザーの娘であるちかが礼儀正しくて、ちかのお母さんもちゃんとした人だったから。
わかる。わかります!
片親の子どもを信じなくなるお母さんの気持ち。
片親の子どもだけど、まっすぐ生きてきて、さよのお母さんの偏見を捨てさせるまでになった、ちかやちかのお母さんの頑張り。
このシーンの二人のやりとりを聴きながら、いきなり涙腺決壊ですよ。

片親というだけで、私自身どれだけの偏見のまなざしを浴びてきたか。
そのまなざしを跳ね返すため、見返すために、勉強もスポーツも、両親が揃っている同級生たちに負けないようひたすら頑張っていた。
多くの級友が持っているものを自分は持っていない。
持っていないのは自分のせいじゃないのに。
両親が揃っているってことがそんなに立派なことなのか。
片親の子どもであるというだけでフィルターをかけられ、自分自身をまっすぐに評価してもらえないのか。
その悔しさとか、閉塞感とか。

そんな子ども時代の自分を思い出して、思わず知らず・・・。


このドラマ、最終回にいたるまでいろんな問題が取り上げられてきました。
小学生とのセックス。
人気のない給食メニューを廃止するか否か。
複数の異性との性交渉。
その他の色々なことが、全てこの最終回に向けての布石だったのだということがわかります。

じつに素晴らしい脚本だと思うし、その脚本に見事に応えた鈴木先生はじめ生徒たち、同僚の先生たちの演技のリアルさに拍手を送りたい気分です。

私の育った故郷には、多くの人種が暮らしていました。
他国から日本にやってきた人たちと、その人たちの子ども、もともとその地に暮らす日本人。

日本人と、海を渡ってやってきた(連れて来られた)人たちと。
その人たちの子どもと、日本人と。
日本人の子どもと、その人たちの子どもと。

複雑な関係性が生み出す差別、蔑視、劣等感、優越感、阻害。
それらが生み出す、人を苛む言葉、自らを卑下する言葉。
あからさまな拒絶反応と、それを受け入れるしかなかった人たちと、それに反発するために暴力と威圧に訴えてきた人たちと。

今このブログで、それらを言葉で表現することはとてもできません。
ただ、そういうものを見てきた私に、この『鈴木先生』の最終回は、あまりにも出来すぎ、きれい事すぎると思えます。

と同時に、まぎれもなく、私が心から願っていた救いがここにはありました。

裁判が終わり、疲れ切って足を引きずりながら歩いている鈴木先生。
その先生の前に広がる色とりどりの雨傘。
『鈴木先生』 最終回_b0137175_18392873.jpg

雨傘が徐々に上がっていき、見えてくる生徒たちの顔。
そこには、中村も、丹沢も、河辺も、武智も。。。
『鈴木先生』 最終回_b0137175_18394316.jpg

小川が先生に語りかける。
「先生を待っていたんです。大事なことを言い忘れていたから。・・・先生、ご結婚おめでとうございます」
『鈴木先生』 最終回_b0137175_18394957.jpg



あの裁判がなく、先生の“できちゃった結婚”もスルーして「ご結婚おめでとうございます」と言われるより何十倍も何百倍も、鈴木先生には嬉しい言葉だったことでしょう。
「気をつけて帰れよ!」
いつもどおりの鈴木先生の言葉を背に明るく帰っていく生徒たち。
『鈴木先生』 最終回_b0137175_12474431.jpg

でも、その生徒たちは、昨日までとは違う自分としてその言葉を受け止めています。
ベタかもしれないけれど、このシーン、私には素晴らしい演出、視覚効果だったと思います。

ここまで『鈴木先生』を見続けてきた人には、生徒たちの笑顔と言葉の奥に、形として残っている“学び”が見えるでしょう。
そして、この鈴木学級にいる生徒たちと、鈴木学級ではない生徒たちとの間に生まれた“学びの差”も同時に見えるでしょう。

その差はなぜ生まれたのか。
その差をどう評価すればいいのか。
運?必然?

もし鈴木先生の教えを受けることが、素晴らしいというのなら、他の学級の生徒たちはどうすればいいのでしょう?
その子たちになにか言葉をかけるべきなのでしょうか?
「残念だったね」と?

私はそうは思いません。
鈴木学級は、生徒たちが長い人生の中で出会うひとつのきっかけでしかありません。
このクラスに入れなかったことは、取り返せないけれど、このクラスの子たちが出会えないきっかけに、これから出会うはずなのです。

私は何人もの素敵な先生に教えを受けることができましたが、同時にどうしようもない先生のもとで学ぶことを強いられた期間もあります。

人生プラスマイナスとんとんさ。

プラスをあたえられても、プラスに出来ない人もいる。
マイナスをかき集めて、プラスにしてしまう人もいる。

外からの刺激を受け止める自分自身がどうなのかということが、一番肝心なこと。
そう思います。

自分自身を見つめ、理解する。他者を見つめ、理解する。
走るのが速い子と、遅い子とが、手をつないでイッセーノセーでゴールするということではなく、速いことと遅いこととを認めあい、それを理解し、尊重しあうこと。

私は金子みすずさんの『私と小鳥と鈴と』を思い出しました。

    『私と小鳥と鈴と』

   私が両手をひろげても、
   お空はちっとも飛べないが、
   飛べる小鳥は私のように、
   地面(じべた)を速くは走れない。

   私がからだをゆすっても、
   きれいな音は出ないけど、
   あの鳴る鈴は私のように
   たくさんの唄は知らないよ。

   鈴と、小鳥と、それから私、
   みんなちがって、みんないい。


『みんなちがって、みんないい。』
この言葉を笑顔で言い合えることって、素敵なことだと思うのです。

とにかく、

花マルつけて、こう言いましょう。
ドラマ『鈴木先生』よくできました!
制作の皆様、出演者の皆様、おつかれさまでした。
あなたたちは、いい仕事をした。
そう胸を張っていいと思います。

gonbe5515


多部未華子さんの舞台『サロメ』の放映日が決まったようです。
9月22日土曜日 午後9:00〜 wowowライブ
『サロメ計画』実行日のやつですよ!
嬉しいような、ちょっと残念なような。
#その日の一度しか観てないので、他の日のも観てみたかったから

意外に早かったですね。もうちょっとかかるかと思ってた。
by starforestspring | 2012-07-20 19:26 | 映画・ドラマ | Comments(2)
Commented by かわたべ5678 at 2012-07-21 12:16 x
こっそり観られてたのですねw 僕は第1話で心を鷲掴みにされたものでしたが、やっぱり好みは人それぞれなんだなぁ・・・

でも最終的には気に入ってもらえて良かったです。自分と重なる部分を見い出した瞬間に、そのドラマは特別なものになりますもんね。

僕の場合は鈴木先生やぐっさんのスケベさ、気の小ささに自分を見い出したから、すぐにハマったのかも知れませんw でも、それより何より語り口の斬新さがすごく面白く感じた、と自己ファローも忘れませんw
Commented by starforestspring at 2012-07-21 16:02
私も結構楽しみながら観てましたよ。
同じ中学二年生を娘に持つ身として、かなり興味を引かれる部分もありましたし。
と言っても、ドラマそのものが面白くなければ、途中でやめてますので、最後まで見ることが出来たのは、作品の力だと思います。
特に最終回は、大団円と新たなる始まりとが共存していて、素敵な終わり方だなあと思いました。
劇場版、見に行くつもりでいます。
二学期が始まったあと、みんながどうなってるのか。
夏休みの間に、なにか事件が起こるのか。
興味津々です。
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