『ケータイ小説家の愛』

『脚本がしっかりしてれば映画もそれなりのものが出来る』
そんな意味のことをおっしゃっていた黒澤明監督の言葉を信じていた私。
が、
『雨上がる』『海は見ていた』の二作を見て、必ずしもそうとは言えないってことも知りました。

もちろんこれは「黒澤監督が書かれた脚本に、悪いものがあるはずがない!」っていう心酔者の思い込みによるものかもしれません。
この二作が“それなりのものになっていない”のは、小泉監督や熊井監督の責任ではなく、脚本そのものにあった・・・のかもしれません。
そのどちらであるのかは、観る人によって意見が分かれると思いますが、少なくとも私はこの二作が“それなりのものになっていない”のは、脚本ではなく監督の責任だと思っています。もっと言えば、この脚本を映画化しようとしたプロデューサーの責任だと思います。


映画は総合芸術。

脚本、監督、美術、衣裳、音響、編集、役者・・・それぞれに関わる人たちの力が相互に影響しあって一つの作品となる。それぞれのスタッフの力は、作品の中に、目に見えないような深いところに埋め込まれている。ある映画がもてはやされると、多くの場合、そして多くの人が監督・役者の功績を讃えるけれど、それだけじゃないんですよね。監督と役者だけで作品が出来るわけじゃない。作品に関わり、支えてくれる多くの表舞台に出てこない人がいる。

それを知っている監督や役者は、スタッフへの尊敬を忘れないし気配りを忘れない。自分の領分は自分が守り、最大限の力を注ぎ込む。だから相手の領分に対する敬意を忘れないけれど、同時に自分と同じように最大限の力を注いでくれることを相手に期待する。そうした責任感、信頼関係の強さ、つながりが作品に結実する。
なかよしこよしをヨシとする、まあまあって気持ちで妥協する、相手に強く言わないかわりに自分にも強くいってくれるな・・そんな現場ではいい作品って生まれない。

どんな現場になるのか。
それはプロデューサーが描く夢次第。プロデューサーの腕次第。
企画の実現の為にふさわしいと思えるスタッフを見つけてくる。集めてくる。
出来た現場が作る作品は、プロデューサーの作品。
作品の良し悪しは、プロデューサー次第。


映画制作のことはなにひとつ知らない私ですが、仕事の上でさまざまなプロジェクトに関わってきた経験から、きっとそうなんじゃないかなあって思います。
それともこれは“夢見るよい子ちゃん”の思い込みでしょうか?


前置きが長くなりましたが、『ケータイ小説家の愛』です。

>商品にするからには、数々の注文や制約をクリアしなくちゃいけない
かわたさんはご自身のブログの中で、こんなことを書いておられます。



ビジネスですからね。
霞を食って生きてはいけないのですからね。
投資した以上は、投資分の回収はもちろん、利益を出さなきゃいけない。

ではどうすれば利益が出るか。
簡単なことです。売れればいい。
じゃ、売るためにどうする?


・・・・ここから先なんじゃないでしょうか、問題は。


でっかい花火をうちあげるように、どどーんと売れて、あとにはなにも残らない売れ方。
小さい炎なんだけど消えない。どころかその炎を消すまいと、手をかざしてくれる人もいて、いつまでも燃え続ける。そんな売れ方。

商品が売れに売れてるところ、そこそこ売れてるところ、倒産しない程度に売れてるところ・・いろいろあると思うんです。ただ、売る側がどこを狙うのかによって、その商品の作り方、広告の仕方、販売の仕方って変わってくると思います。
ヒットを狙ったのか、利益が少なくても時代を先取りするような作品を作りたかったのか、前衛的な作品を目指したのか、少数でも熱心なファンに受け入れてもらえる作品を作ろうとしたのか、それとも・・・年度末の公共工事のように、予算を使い切るために「何でもいいからとにかくあと一本!」って作ったのか。。


この作品をプロデュースした方は、なにを目指していたのでしょう?
どのターゲットを狙い、どんな風に売ろうとしていたんでしょう?
それ以前に、どれくらい売るつもりだったのでしょう?
見終わったあと私は、この作品がどういう意図で作られたのかを知りたくなりました。


そのプロデューサーさんから予算がなくて・・って答えられちゃうと、ここから先の話は書く前から終わってしまうですが、一応書きます。


役者。
ひどい、ひどすぎる
出演している方々の演技がもう・・・目も当てられない。
かわたさんの脚本だから、そのあとの展開が気になって見続けましたけど、それがなければ、田村くんの登場の時点で私はスイッチを切ってたと思います。

>ケータイ小説を徹底的に茶化したパロディーから、毒を抜いたら一体どうなるか? それは、普通のありきたりなケータイ小説になっちゃう!

文章を読んだとき、その意味するところがよくわからなかったのですが、作品を見て納得できました。これはパロディになってない。ただの思い込みの強い女のコが一念発起したケータイ小説を書こう!という夢を実現するためにとった無謀な行動と、まわりの人々に与えた影響、そこからつながる事件、身に降りかかる不幸とそして・・・幸せ。

・・・・え?幸せ?

ラストシーン、フェラーリの助手席で、HIDEKIと愛ちゃんがにっこり見つめ合っている図を見たとき私は、田村くんがかわいそうでかわいそうで。。。

ハ、ハッピーエンドにしてしまうのか?って感じでした。
それじゃ、愛ちゃんのこやしになって散っていった田村くんや友樹くんはどうなる?

やっぱ愛ちゃんには、HIDEKIを劇的なシチュエーションで殺害してほしかったなあ。。
で、手錠を掛けられたところで夢から醒める・・・とか、血を見てにっこり笑ったあと、自分の体もナイフ(かなんか)で切りまくり、警察が来たあと泣き崩れて被害者のフリをして、見えないところでニタッって笑う悪女になってるとか、『あ、これもネタにつかえるかも・・』って嬉々としながらもケータイを打ち続けるとか。。

そんなラストのほうが、きっとおもしろいと思うのですが。
 #シロートがほざいてるだけですので、無視して下さい。

とにかくこれは、料理の仕方に問題があると思います。
役者はもちろんです。そんな役者の演技をヨシとしてしまった監督ももちろんです。
ですが一番問題なのは、それらを統括したプロデューサーだと思います。

そう、プロデューサーの責任です。

『ケータイ小説家の愛 ~再生~』が企画されるのを期待しましょう。もっとしっかりした役者さんで、もっとしっかりした監督さんで、もっとしっかりしたプロデューサーさんで。そうなったら私、絶対もう一度観ます。


>完全に私自身の投影であり、私にとって理想のクリエイター像でもあるんです。

>何かメッセージを感じてもらえるのか、その解釈がこちらの意図とリンクしてるのか、

かわたさんごめんなさい、私は役者さんたちの演技に耐え続けることと、お粗末な編集に目をつぶることのほうに疲れてしまって、かわたさんのメッセージを受け止めることが出来なかったみたいです。ましてかわたさんに脚本のオファーを出したプロデューサーさんが悪いと、大きな声で叫んでしまいました。


gonbe5515


いろいろと、勝手なことを書き散らしました。
お気に障ったら申し訳ありません。

それはそれとして、
かわた脚本に興味が出てきたので、今度は『亜弥のDNA』を観てみます。

それにしても プ...
by starforestspring | 2012-02-26 15:27 | 映画・ドラマ | Comments(5)
Commented by かわたべ5678 at 2012-02-26 21:02 x
gonbeさん、真摯なレビューを有難うございます。辛口ですが、だからこそ『KILLER IDOL』への好評価が社交辞令じゃない事が証明されて、嬉しいです。

立場上、僕の口からは絶対言えない事をズバ!っと直球で言って頂いて、むしろ清々しい気分ですw

何が一番いけなかったかと言えば、僕が自分で監督しなかった事だと思います。それで少しは見られる作品になったかどうか、それはやってみないと分からないけど、あんなに自分の想いを込めて脚本を書いたと言うなら、監督を他者に譲るべきじゃなかった。(つづく)
Commented by かわたべ5678 at 2012-02-26 21:10 x
P氏は本来なら私に監督させたかったらしいですが、僕は既に田舎に引っ込んで今の仕事を始めてた時期だったんで、不可能でした。

結局、この作品で僕がやりたかった事が、P氏や監督さんに伝わらなかったんですね。読めば伝わる筈だっていうのは、僕の思い上がりでした。伝わっても結果は同じかも知れませんがw(つづく)
Commented by かわたべ5678 at 2012-02-26 21:23 x
P氏がこの映画で何がやりたかったのか、どう売りたかったのか、僕にも分かりませんw

『KILLERS』もそうでしたけど、ろくに宣伝もされずに公開されて、そりゃヒットするワケが無い。誰も知らないんだから。

『KILLERS』はまだ、押井監督のファン層という保険がありましたけど、売る気が無いならなぜ創る?と問いたくなる映画が、けっこう無数に創られてるのは事実です。だから、マイナーな創り手は永遠にマイナー世界から上がって行けないんですよね。ジャパニーズ・ドリームは存在しないんです。
Commented by hyoutangaiden at 2012-02-27 08:26 x
夢を形にするって難しいとひしひし感じるお二人のやりとりですね!!


ドラマを一観客の立場にこだわって観ている私にはなかなか重い文章とコメントです。

でも、いつか何かを気付かせてくれそうなやりとりを、心して読ませてもらってます!
Commented by starforestspring at 2012-02-27 21:10
>hyoutangaidenさん
エラそうなことを書いていますが、実は私も全然わかってないんじゃないかって気がします。
私がスクリーンのこちら側の人間であることにかわりはないですから。
向こう側にいらっしゃる制作のみなさんが、作品に込められた思いを、ちゃんと受け止めることが出来てるんだろうかって考えると、申し訳ない気分になります。

単純に、作品を楽しめばいいだけのことかもしれませんが、映画という文化、芸術に惚れてしまった以上、どうしてもなにか言いたくなってしまうんです。
なんにもわかってないくせにね。

映画って、本当に素晴らしいですよね。
見たい映画を見たいように見られる幸せを感じる今日この頃です。

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