『一命』 3

ウルトラマンは3分間しか戦えない。
胸のタイマーがピコ〜ンピコ〜ンとなり始め、
「ヤバイ!3分以内に倒せない!」
と、こうなったら、ウルトラマンはスペシウム光線を発射し、相手を粉々に吹き飛ばしてしまう。


「助さん、格さん、こらしめてやりなさい」
ご老公は少し怒りを含んだ声ではっきりと命令する。
ご老公の許しが得た助さん格さんも、悪い奴らのことは苦々しく思っていたので、手抜きなしで悪者をやっつける。
チンピラたちはもちろん、大小を束ねた家来たちも助さん格さんにまったく歯が立たない。

で、あらかた相手を倒したあとおもむろに、
「もういいでしょう」
ご老公がささやくと、格さんがふところから葵の紋の入った印籠を取り出し、
「ええ〜い!静まれ〜静まれい!」と叫ぶ。

するとそれまで戦っていた悪者たちが二三歩後ずさり、そしてなぜかきれいに整列して土下座してしまう。

スペシウム光線も印籠も、
最初から出してしまえば、時間と労力の節約になるし、なによりけが人も出ることはない。
みんながそれをわかってるのに、口にはしない。
言わないほうがみんなが幸せでいられる、そういう“お約束”ってありますよね。


『一命』のラスト、殺陣のシーン。
今回の三池監督は『十三人の刺客』に比べると時間も短く、おとなしめに演出しておられました。
が、それでもやっぱりここにも“お約束”が存在するわけで。

「ヤーッ!」「ウオーッ!」とかけ声をかけて井伊家の家臣たちは半四郎に斬りかかります。
なにしろ多勢に無勢。
井伊家家臣たちは半四郎を囲んでるのですから、常にだれかの正面に半四郎の背中がある。
しかも半四郎は正面、右、左の敵に対して目配りをしているから、背中はがら空き状態。
大きなかけ声をださず、黙って“スッと”刀で突けば、半四郎やられてしまうと思うのだけど、だれもそれをしない。
必ず大きな声を出して、振りかぶっていくのね。
で、気配を察した半四郎に切られてしまう。

私なぜだかインディージョーンズのハリソン・フォードを思い出しました。
シリーズのどれだか忘れたけど、青竜刀みたいな大きな刀を振り回してインディーを威嚇している相手を、懐から出した銃で簡単に撃ち倒してしまうシーン。
ああいう感じで主人公があっさりやられたら、どうなるでしょうね。

やっぱりお約束は必要なのです。


さて、気を取り直して、今日はこの映画で、「ああ、ここはよかったね」というところをご紹介したいと思います。


ひとつしかないんですけど。

井伊家家臣によって運び込まれた求女の遺体。
半四郎は家臣に求女の最期の様子を聞こうと、外に飛び出し嫌がる家臣にとりすがる。
その間、家の中にいた美穂は、求女の手のひらに刺さった竹をひとつひとつ抜き取り、
求女の懐にあった菓子を頬張り・・。

・・・・・・・・

半四郎が家に戻ってくるとそこには・・・。

ここはよかった。
満島さんの演技、カメラの動き、半四郎が戻った時の、静止したカメラ。
三池監督、ここはよかったですよ。
このあと半四郎が井伊家の門をくぐる、充分な動機づけを観客に見せることが出来たと思います。


がしかし、
『一命』は『切腹』を越えてはいない。

エンドクレジットを最後まで見終わり、席を立った私の胸によぎった思いは、
それでありました。


gonbe5515
by starforestspring | 2011-10-21 18:01 | 映画・ドラマ | Comments(3)
Commented by かわたべ5678 at 2011-10-22 00:16 x
gonbeさんのレビューを拝見すると、けっこう今の時代の空気が反映されてるようで、三池監督も珍しく真摯に(笑)取り組んでおられるようだし、見応えありそうですね。

でも、オリジナルを超えられないなら、やっぱりリメイクする意味って、無いですよね。僕は『ザ・フライ』を観た時に、『蠅男の恐怖』というC級SFが感動的な大作に生まれ変わってて、初めてリメイクする事の意義を感じましたが、それ以外ではなかなか無いですね。

良く出来た作品を、なぜ創り直す必要があるのか? 名作はその時代の空気も含めての名作だから、違う時代では再現しようが無いし、第一オリジナルの作者に失礼ですよね。

ただし、キャストのファンにとっては、違った価値はあるかも知れませんね。あの名作を多部未華子主演で!とかになったら、それはちょっとワクワクするかも知れません。まぁ、その作品によりますけどw
Commented by starforestspring at 2011-10-22 08:59
>かわたべ5678さん
そうですね、真摯に取り組んでおられた印象を受けました。
ご覧になっても損はないかな・・・とは思います。

>『蠅男の恐怖』というC級SFが感動的な大作に生まれ変わってて
なるほど、そういうこともあるんですね。たしかにそういう風になれば、リメイクも意義がありますね。

私の知る限り、日本映画で“リメイク”されたもので、オリジナルを越えたものはひとつもなく、オリジナルを見る気を失せさせる危険性さえあったように思います。
『東京物語』や『椿三十郎』のリメイクを観た人がオリジナルに興味を持ってくれればいいんですが、リメイクを観たことでオリジナルを観た気になってしまうんではないかと。

スターウォーズの冒頭が、隠し砦の三悪人へのオマージュであったように、過去作品を自作に取り込むことで、敬意を表すという手法がありますよね。
オリジナルを尊重するのなら、ああいうことで、その気持ちを表したので充分ではないかと思うのです。

つづく・・・
Commented by starforestspring at 2011-10-22 09:05
つづき・・・
リメイクは、過去作品の脚本、演出を意識してあるいはなぞって作られます。
人が苦労して作った脚本、演出を後世の人がチャチャッと使うのって、他人のふんどしで相撲を取るようなものではないでしょうか。

リメイクされる作品は、名作と言われるものがほとんどです。制作者はその作品のタイトルを借りて、労せずに集客や利益を目指しているとは言えないでしょうか。
自分で苦労しろよと。自分の頭を使えよと。


『一命』は『切腹』の“新しい解釈で映画化”
この作品の公式サイトではこういう表現を使っていますが、詭弁にしか思えませんね。
そういう姑息な態度が益々気にくわない・・・。

出演者に罪はありません。出演者には。
海老蔵さんも瑛太さんも満島さんも精一杯やったと思います。じっさい良かったし。

今私はもう一度観るために、DISCASで『切腹』を予約しています。
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