ある出来事

先日、とあるご縁で60才代後半から70才代後半の女性ばかりのパーティーにご一緒する機会があった。
彼女らは謡曲を楽しまれる方々で、年に一度の発表会を終えたあとの“打ち上げ”だとのこと。

およそ50人くらいだろうか。
テーブルを囲んで談笑しておられる姿はいかにも楽しそう。
緊張のかたまりで迎えた発表会を終えたという安堵感も手伝って、大いに楽しんでおられるご様子。

一番年長のかたは、80才を越えていらっしゃるそうな。
ご紹介いただいたけれど、小さなお体を和服で包んだようなお姿でちょこんと座っておられた。
少々お耳が遠いことをのぞいては、毎日お元気でくらしておられるらしい。

「歳を重ねる」という言葉があるけれど、この言葉は誰にでもあてはまるものではないような気がする。
長い年月、生きてきたことで自ずから現れる威厳と落ち着き。
達観・・という言葉を使ったら失礼になるかもしれないけれど、ニコニコしながら耳を相手側に向けてお話を聞いておられる様子を見ていると、どんな八十余年だったのだろうと、想像をたくましくしてしまった。



正直いって、ご高齢の女性の集まりというのは苦手である。
#誤解のないように言っておくが若い女性たちの集まりはもっと苦手である。
なぜか。
まず、うるさい。
そして話す内容が、家族や孫、ご近所さんたちのうわさ話が多い。
たいていの方は、人の話を聞くより、自分の話をすることのほうがお好きだ。
そしてなにより、もういっぱしのトシになっている私のことを、子供扱いするということが、なんとも面はゆい。
「あら~若いわねえ」
「まだまだこれからよ」
「棺桶に足つっこんでるっていうのは、私らのトシにならないとわからないわよ」
「もう何人のこっているかねえ、同級生は」

おばさまたちにおもいっきりいじられ、
少々辟易しかけたころ、頭の奥のほうから突然声がした。

この方たちの年齢は、私の母とおなじくらいなのだ、と。


姉、兄、私と、三人の子供を母は、18才、20才、22才のときに産んだらしい。
してみると、母の年齢はこのおばさまたちの集団の、ちょうど真ん中くらいに位置することになる。
そうか、母がもし今もどこかで存命であったとしたら、こんな感じなのか。
そう気づいたとたん、私のなかでなにかが壊れた。
まわりのおばさまたちの顔の皺、厚い化粧、着ている服、歩く姿、曲がった腰。
これまでほとんどしたことがなかったのに、驚くほど素直に“母の像”をイメージしている自分がいた。

なぜだろう。
なぜだかわからない。

これまで多くの人を見てきた。
しかし、その方たちの年齢を母になぞらえるようなことをかつて一度もしたことがなかった。
なにより、母という言葉や像は、私の脳内に存在しないはずなのだ。
そんな私になぜあんな声が届いたのだろう。
それが不思議でならない。



会はおひらきになり、皆さんは三々五々帰途につかれた。
私はその後ろ姿を(不遜かもしれないが)とてもやさしい気持ちで見送ることが出来た。
これまでおつかれさまでした、と。
これからも元気で長生きして下さいね、と。

   gonbe
by starforestspring | 2010-06-14 18:59 | 雑感 | Comments(0)
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