オリエンタルランドの落日

毎年恒例の東京ディズニーリゾートへ出かけてきた。
早いものでランドはオープンして27年。
大変残念なことだが、さすがのランドも疲れてきたように思える。


ディズニーランドは“遊園地”ではなく“テーマパーク”
漢字をカタカナにしただけ・・・ではもちろんない。
そこはまさしく夢の舞台だった。
初めてこのテーマパークに出かけて以来、すっかりファンになり、毎年家族を引き連れてはるばるやってきた。
しかし、
それも今年で終わりになるかもしれない。
ディズニーランドは変わってしまった。
そしてたぶんこれからもどんどん変わっていく。
どういうふうに?

“ただの遊園地”に戻ってしまうのだ。


兆候は以前からあった。

今回、帰りの京葉線のシートに座って考えた。
来年またこのシートに座ったとき、感じるのは失望ともしかしたら怒りかもしれない。
いやたぶん、きっとそうなる。
大好きだったランドからの帰り道がそうなるくらいなら、ランドを訪れるのをやめてしまった方がいいのではないか・・と。

ディズニーランドのなにが変わったのか。
夢と冒険の国が、現実の国に成り下がろうとしている原因はどこにあるのか。
私自身が考えたその原因をこれからの何日かにわたり話していきたいと思う。


=落日の兆候<1> キャスト =

ディズニーリゾートは、それまでの日本の遊園地で働くスタッフのイメージを根底から覆したところだ。
それまでの遊園地で働くスタッフは、チケットのもぎりや客の乗降の誘導など、アトラクションの番人でしかなかったのに、ディズニーでは彼らが来場者に積極的に関わり、来場者に対して夢と感動を与えようとそれまでの遊園地では決して見られることのなかった、さまざまなアプローチを行ってきた。

それまでの“遊園地”で働くスタッフは来場者に対して常に上から目線で接していたように思う。
来場者もまた、そこで働くスタッフのことは意識の外に置いており、アトラクションさえ面白ければそれでよしとしていたはずだ。

ディズニーランドは、違った。
ディズニーランドはそこに集まってくる人(ゲスト)を主役とし、その主役にディズニーランドというステージで行われるショーに参加してもらおうとした。
そして、スタッフは(ディズニーでは彼らをキャストと呼ぶが)そのゲストに魔法をかけ、感動を提供しようとしてくれた。

かつては、間違いなくそうだった。
キャストは皆、親切で明るく、実に楽しそうに働いていた。
だからこそ私は感動したし、毎年やってきてその感動を再体験し、それを糧にまた一年頑張れた。
しかし27年を経た今、残念ながら、キャストとはとても呼べない“スタッフ”が多くなりすぎた。
魔法をかける力と意志を持ち続けている“キャスト”がまだ残っていることは認めよう。
しかし、彼ら彼女らは、あきらかに少数派になってしまった。


今回目についた“スタッフ”
・笑っていないカストーディアルキャスト。
・足をひきずってだるそうに下を向いて歩くカストーディアルキャスト。
・ゲストの楽しい気分に冷や水をかけるような恐い目つきでパークを歩き回る女性セキュリティキャスト
・ゲストの目を見て、こんにちは”と言わないアトラクションキャスト
・パレードの開始を待っている時、ただ、そこに立っているだけで、まわりのゲストに注意を払っているとは思えないゲストコントロールキャスト
・ゲストが理解できているかどうかにお構いなく、入場に対する注意事項を聞き取れないような早口で一方的に繰り返すフードサービスキャスト(ケープコッド)


今回遭遇出来た“キャスト”
・レイジングスピリッツの乗車直前、肩掛けバッグやリュックをあらかじめ外しておくように説明していたキャスト
・ビーバーブラザーズのおにいさんたち(ここは他のアトラクションから離れているせいか、キャストが希少種として生存できているのかもしれない)
・ライドアンドゴーシークのアトラクションキャストはみんなが笑顔だった。
・タートルトークのアトラクションキャストは、楽しいインフォメーションをしてくれた。クラッシュのトークも絶妙で、クラッシュ役のキャストに会ってみたかった。


どうしてこんなことになってしまったのか。

  1.モチベーションの違いかも

 かつてのキャストの多くはディズニーランドにゲストとして訪れ、そこで働くキャストから感動を受けた人が多かったに違いない。
だからこそ、自分もキャストを目指し、キャストとなってからはかつての自分がそうであったように、ゲストに対して感動を提供しようとし、提供することが使命と信じていたはずだ。
しかし、今のキャストには、そういう感動体験を持つ人が減ったのかもしれない。
ディズニーで働くことが、“特別な意味を持つ”人ばかりではなくなってしまったのではないだろうか。

他の多くの“アルバイト先”とディズニーランドで働くこととを同列に位置づけているから、言われたことを言われたとおりにこなすことが仕事の目的となり、ゲストに感動を提供するというディズニーで働く者が絶対忘れてはいけないことを忘れてしまったのかもしれない。

  2.キャスティングセンターのスタッフの仕事に妥協が入り込んでいるのかも

キャストを教育、指導するセンターのスタッフに、「まあ、いいか」という甘えはないだろうか。
アルバイトの教育というのは、終わりのない仕事だ。
ここまでやったら大丈夫・・というゴールはぜったいにやってこない。

教え、育てたキャストは必ず辞めてしまう。
新しいなにも知らないキャストはどんどん入ってくる。
同じトレーニングカリキュラムを行い・・パークに送り出し、
ホッとする間もなく次の新しいキャストがやってくる。

その繰り返しは辛いものだと思う。
しかし、それを“繰り返し”と捉えていたらその仕事をこなすことが仕事の目的となってしまう。
キャスティングセンターのキャストの仕事は、
“ただの人をキャストに生まれ変わらせること”のはず。
キャスト以上にキャストらしくなければ理想は伝わらない。
そうであるべき人たちが“ルーティン”の枠に落ち込んでしまったら、
そういう人に教育訓練されたただの人は、やっぱりただの人のままだ。

それと、もしかして
人手不足を理由に、それまで採らなかったような人まで採ってはいないか?
今回パークを歩いていて、私の頭の上に「???」が飛び交うようなスタッフをあちこちで見かけた。
 ※一応私も人事担当なので、そういう部分への鼻は効くつもりだ。

ウォルトが目指した世界を実現するためには妥協は許されないはずだと思うのだけど。。


  3.平均年齢が上がったからかも

ランドで働く人たちの年齢が概して高くなっているような気がする。
かつてはいなかったような年代の方々があちこちで働いておられる。

その点について疑問を呈するとウチのニョーボは
「オープン以来働いている人が、トシを重ねただけじゃないの?」
と好意的に解釈していたが、私にはとてもそうは思えない。
もしそうなのだとしたら、
彼ら彼女らは他の若いキャストの手本になるように、
もっと笑顔で明るく振る舞っているはずだから。

経済不況が生み出した解雇の嵐。
その嵐に飲み込まれ、放り出された人、行き場のない人が、ここにやってきているのだろうか。

それを悪いことだと言うつもりはないのだ。
ただ、他の会社で長く勤めていた人が、ランドのような「感動を提供する」ことを目的とした他とは絶対的に違う職場で働くためには、徹底的な「洗脳」が必要になると思うのだ。

他の職を経験してきた人に対して最初にしなければ行けないことは「過去を捨てさせる」こと。
かつて勤めた会社での役職、仕事の流れ、言葉遣い。。。そして年配であるということのプライド。
そういうものを全て捨ててもらわねばならない。

経験というものが役に立つのは、同業の仕事に就いたときだけだ。
全く違う職種に就いた場合、かつての会社での“経験”は多くの場合邪魔なものでしかない。
年配の人間には、若輩の人間がもつ“恐いもの知らず”とか、“失敗したらその時はその時”というような、
ものごとを前向きに考える力が残念ながら決定的に不足している。
いわゆるプライドが邪魔するという傾向に陥りがちなのだ。

ランドで働く人は、夢見る人でなければならない。
理想を追える人でなければならない。
自分が働く場所が夢の国であり、希望の国であることを“信じきれる”人でなければならない。
そうでなければ、ゲストに感動を与えることなど出来はしない。(と思う)
年配の人間はあまりにも現実を知りすぎてしまっている。
ランドにとって最も遠ざけなければならないものを、彼ら彼女らはもうすでに知ってしまっているのだ。

平均年齢が上がったこと。
ランドにかつてのはじけるようなパワーがなくなってしまったのは、このことが決して無関係ではないと思われる。


“ゲストが主役”とウォルトは言ってくれたけれど、
訪れる立場から言わせてもらうと、ランドの主役は間違いなくキャストだ。
どんなにアトラクションが刺激的でも、どんなに楽しくても、仏頂面のキャスト(スタッフ)に案内されて乗るのなら願い下げだ。

なぜ、毎年“イッツアスモールワールド”に行くのか。
何が歌われ、どこで水が吹き上がり、次のコーナーを回るとどこの国の人形が現れるのか。
そんなことはもう知っているのに、なぜ出かけるのか。
ボートが出発するときに、笑顔で飛んでくる「いってらっしゃーい!」の一言が聞きたいためだ。

キャストの復活。
それこそが、かつてランド隅々に立ちこめていたあのオーラを取り戻すためになによりも先に取り組まなければならない対策だろう。

   gonbe
by starforestspring | 2010-05-27 20:18 | ディズニーランド | Comments(0)
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